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杉藤レポート
特集「僕は外人コーチ」
僕は外人コーチ-2- ロウイングと安全について
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1. エイトはひっくり返ることはない 2. 工具は、舵手がウエスト・ポーチに入れて乗艇している 3. 最寄りの病院はどこだかわからない 4. わが艇庫には、緊急時用にも使えるピンク電話がある 5. 多くの障害は陸上で起こる。乗艇中に重大な障害が起こることは少ない 6. 健康管理は選手個々の仕事である 7. 水上のボートは接地してないから落雷しない |
これらの考えに4つ以上同意するとしたら、あなたは大変なリスクを冒しながら、このスポーツに取り組んでいるかも知れません。
何を隠そう、これらは全て私自身が犯していた間違いです。私自身の経験からのみの判断ではあるかも知れませんが、日本におけるロウイングは、安全面への配慮が少なからず欠けているように感じられます。
第2回りボートのテーマとして、私は「安全=Safety」を取り上げてみたいと思います。
では、ここから読み進む前に、白紙を4枚用意してください。広告の裏でもノートでも、何でも構いません。3年前(あるいは現在も、でしょうか)「スポーツは体に悪い」という本が日本でベスト・セラーにたりました。やや強引な論法ではありましたが、スポーツに潜むさまざまな危険性について、実験事実などに基づいて論じた本です。著者は、生化学的な見地からの老化の研究を専門とする学者であり、化学反応性に富んだ「活性酸素」が細胞や租戦を傷つける、というあまり知られていない事実をセンセーショナルに取り上げる部分がこの本のハイライトです。書評はさておき、この本は「スポーツは、本当に体によいのだろうか?」ということを考える大きなきっかけを作ってくれました。
さて、スポーツは、そしてロウイングは、人体によい働きをするでし上うか? あるいは、悪事を働くでしょうか? ここで読むのを休んで、1枚目の紙に、スポーツ(あるいはロウイング)が、人間にもたらす良い効果と悪い効果について、どんなことでもいいですから、思い付く限り書き出してみてください。もし、そばに友人や家族がいるなら、皆で意見を出してみてください。
いかがですか? 良い効果、悪い効果ともにたくさん出たことと思います。その中には、きっと生理学的なことがら、心理的なことがらが多く含まれていることでしょう。社会学的、経済学的なことにまで言及された方もいらっしゃることと思います。
では、2枚目の紙には、あなたが置かれた状況下において、自分自身や選手たちがそれぞれの良い効果を最大限得るためには、どうしたら良いかを書いてください。
同様に、3枚目の紙に、それぞれの悪い効果をなくす、あるいは最小眼に食い止める方法を書いてください。
この2枚目と3枚目の紙、特に後者は、あなた自身のスポーツ(ロウイソグ)の安全に対する戦略だと思いませんか?
あなたがどんな立場でスポーツに接していても同じように言えることです。選手やコーチはもちろん、その家族、監督、マネージャー、OB、OG、教師、協会役員..etc
もし、あなたが指導的立場にあるならば、特に細心の注意をもって、安全確保の責任を果たすことが義務だと思います。
明らかに、ロウイングには、多くの危険が存在しています。皆さんが書かれたことは全てそうでしょうし、「板子一枚、その下地獄」の言葉通り、最悪の場合、死の可能性さえあります。痛ましいことですが、不運にも命を落とされたオアズパーソンが、ほぼ毎年、日本国内にも数名存在していることが私の記憶の中にあります。
その中の多くは、高校生や大学生などの経験の浅い選手でした。
では、選手が多くの経験を積み重ねれば、事故は未然に防げるでしょうか?
多くの危険を経験から知っているであろう強豪実業団チーム、ナショナル・チームも事故と無縁ではありません。
スポーツの安全を守るのは、選手をはじめとする周囲の協力は無論必要事ですが、コーチの責任であることをCAC(カナダ・コーチソグ協会:詳細は前回のリポートを参照)は説いています。
NOCP(国家コーチ免許制度:詳細は前回のリポートを参照)のしベル-1,2では、理論の中で、安全は最も大きなトピックです。
レベル-1,2は、比較的競技レベルの高くない選手・チームのコーチを対象としていますから、この中で論じられているのは、特に発生頻度の高い身体的な危険に対する安全対策です。
先日、レベル-1の理論単位の講習指導者免許取得セミナーで、ブレゼンターを勤めたブリティッシュ・コロンビア州スポーツ医学委員会のメンバーでもあるクリス・ジョンソン氏が強調した「スポーツの安全、3つのメッセージ」をここに書き留めて置こうと思います。
(1)危険防止は、治療などの対策に勝る
(2)傷害は最小限に食い止めよ。重大にさせてはいけない
(3)疑問が少しでもあれば、すぐに911(日本における110+119)を !
レベルー3,4では、心理的な部分やオーバーユース傷害、バーンアウト(燃え尽き)などに代表されるオーバー・トレーニング・ンンドローム、そしてドーピング追放に重点が置かれます。
理論の単位だけでなく、技術の単位においても同様に、個々のスポーツ種別こ特有な安全対策に重点を置いて論じられています。
ロウイングのしベル-1の技術単位においては、天候チェック、交通ルール、浅瀬や障害物、艇の出し入れ、用具とその管理、ウオームアップとクールダウン、熱中症、低体温症に関しての安全確保、緊急対策が論じられています。 特に、ユニークなのは、寒い土地柄、溺水よりも低体温症についての言及が大きな位置を占めていることでしょう。
このNOCPの哲学に倣い、各ロウイング・クラブは個々の安全基準を持っています。
では、このようにコーチたちが徹底的に安全対策をたたき込まれるカナダでのむ安全対策券は完壁でしょうか?
答えは「No」なのです。
ほかでもない、ここビクトリアで1992年12月、突然襲った強風にあおられたビクトリア大学新人男子エイトが転覆し、コーチの運転するモーターボートでは、そのうちの6人しか救助できず、3人が帰らぬ人とたったそうです。
それ以降、VOR0(ビクトリア市ロウイング・クラブ)では、16ページにも及ぶ冊子に書かれた徴に入り細に亙る安全対策を作成し、艇庫を使用する全ての人がこの冊子を持ち、内容を遵守することを義務づけています。
主な内容は、各シートにーつづつの救命胴衣と笛を持つこと、乗艇時、コーチ・ボートが常に付くこと、コーチ・ボートに選手と同数の救命胴衣を積むこと、出艇・帰艇をチェックするログ・ブック(練習日誌)にサインすること、天候チェック、湖上でのルール、艇庫使用のルール、用具の管理、緊急対策(特に低体温症)などです。
ところがところが、やはりこれでも完壁ではありませんというのも、外国人の私から見ると奇異に映るほど、彼らが危険な行動を取るからです。
たとえば、どの選手も皆、ナショナル・チームの選手さえ、(ことによると彼らを見習って?)陸上では全くウオーミング・アップをしません。乗艇前も、筋力トレーニングの前でもそうです。(クール・ダウンはします) ストレッチソグはほんの数名を除いてしません。
高緯度という土地柄、夜が長いからでしょうか、真っ暗でも平気でバンバン漕いでいます。時にはライトを点灯せず、漆黒の湖上に浮かぶボートやコーチ・ボートがいるのです。
10月初めころのある早朝、彼らには普通の気温なのしょうか、肌寒さを感じながらコーチングしていた私の目前で、ビクトリア大学の新人選手たちがコーチ・ボートから飛び込んで着衣泳力テストをしていました。
こういうこと全てが、彼らカナダ人、いや、ビクトリアのオアズ・バーソンにとっては常識なのでしょう。逆に、彼らを日本に連れてきたら、私たちが気にしていない危険を見て取るだろうと思います。
このようなことは、どんなクラブにおいても起こり得ることではないでしょうか。
自分たちにとっては常識であっても、客観的には信じがたい危険を冒していることが多分あるのではないかと、私は思うのです。
常識に安住することが時には重大な事故を起します。そして、それは何の前兆もなくやってきます。
もしもあなたがこの原稿を読んで少しでも安全確保を重要だと感じたならば、あなた自身が安全基準を作ってみてください。
長い期間その水域で漕いでいるあなたならば、その水域での危険な撮所をみんなに教えてあげるために、新しいクラブ員であるあなたならば、新鮮な目で見た危険をみんなに知らせるために、危険な目に遭った事のあるあなたならば、緊急時にどんな行動を取るべきかをみんなに教えるために、4枚目の紙にそれを書いてください。
可能でしたら、そうやって作った基準を私も読んでみたいのです。どうか、ぜひそれをこの稿の最後に書かれているアドレス宛に送ってください。
ここまでにあなたが書いた4枚の紙が、あなた自身だけでなく、あなたのクラブ、そしてロウイングに携わるわれわれにとって助けになるとしたら、とても素晴らしいと思いませんか?
先人の定義を借りるまでもなく、スポーツは遊びから発祥したものです。楽しいからやるのです。そして、スポーツが生み出すことのできる価値は無限です。
身体を思うままに操って、自分にしかできないパフォーマンスをすることは、まるで絵を描いたり歌を歌うのと同じように、楽しく創造的で、人生を豊かにしてくれます。
そのようなスポーツをする権利が「危険が多い。何かあったら誰が責任をとるんだ?」というような消極的な理由で誰かに制限されたり奪われたりするとしたら、とても悲しむべきことです。
より多くの人が、より楽しいスポーツをするために、積極的に安全を確保することは不可欠なのです。
以前本誌(95年6月号)に、US Rowing(アメリカ合衆国漕艇協会)による安全教育ビデオ(Ready AIl,Row!)が各都道府県漕艇協会に配布されたとの記事がありました。大変有用なビデオですから、万難を排してぜひともご覧になることをお薦めします。
現時点では、人手不足や予算不足など多くの障害が立ちはだかっていることでしょう。しかし、今すぐでなくても、将釆的には各クラブが、安全確保を初めとするスポーツ・コーチングのノウハウを体得したスタッフを持てるように、われわれ自身が努力して日本のロウイングを変えていきたい、というのが私の夢です。
安全についての記述の締めくくりとして、NCCP-レベル-1理論のテキストにある安全確保のためのステップを要約して紹介しておきます。
日く、あなたは選手たちのスポーツ環境を可能な限り安全なものにする義務がある。そのためには、次の7項をクリアしていなければならない。
① 傷害防止のプログラムを作成せよ
a.全ての選手のメディカル・チェックをせよ
b.ファースト・エイド(救急処置法)の知識と備品を持て
c.選手を監督せよ
d.チームにトレーナーを付ける努力をせよ
e.文章化されたルールを作成せよ
② ホームグラウソド・遠征先にかかわらず、EAP(Emergency Action plan:緊急時行動計画)を作成せよ
③ 選手に正しいケアを受けさせよ
④ 重大な緊急時に何をすべきかを知れ
⑤ どの部位にどんな傷害が発生し、それがどのくらい重大かを知れ
⑥ 故障した選手の復帰時期を慎重に検討せよ
⑦ 怠慢として法的に訴追されることを避ける手続きをせよ
それから、忘れてはいけませんね。この縞の冒頭に記した7頃の考えのどこが間違っているかを書き記しておきます。
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(1) エイトは転覆します。先日もエルク湖で、ある初心者のクルーが転覆して救助に大騒ぎでした。 (2) 金属の工具は比重が重く、それを身に付けていては、落水した際、水中に没してしまいます。 (3) これを知らずに、緊急時対策は万全といえますか? (4) ピンク電話からは、11で始まる番号の音声はオペレーターに通じません (5) 私は3年前の夏、乗艇中に衝突事故で腰椎を骨折しました。私の人生で今の所もっとも重大な怪我です。 (6) 経験豊かな選手でも、疲労を自覚できずに体調を崩すことはよくあることです。周囲の者が彼らの変調に配慮する必要があります。 (7) 自然界に存在する水は、ほとんどが電解質を含む導体です。 |
今回のリポートは、ロウイングの強国であるカナダでの研修リポートとしては、ありきたりでやや期待外れのテーマであると感じられた方も多いでしょう。ですが、私は具体的なテーマとしてこれを最初に取り上げたいと強く感じ、記すこととしました。次回以降のテーマは、未定です。興味あるテーマがありましたら、是非お寄せください。ご意見、ご感想なども大歓迎です。