所感

昭和27年入学 石塚 長治

 今シーズンは何度か茨戸で現役の諸君と接する事も出来たし、またインカレをジックリ観戦し栄えあるメダル受賞も目の当たりにすることが出来た。これらを通じて日頃感じている事を多少辛口になるかもしれないが述べてみたい。

○目的は「勝利」にあること
 早朝艇庫から出艇するクルーはエイトありフォアありそれにペアとスカルも加わる。勿論男子クルーと女子クルーが混在しまさに壮観である。当時想像だにできない賑やかさである。現役部員は百名に垂んという大世帯となった。コーチ一人では到底手に負えずアシスタントコーチの存在も不可欠となっており、マネージャー陣においては朝食準備の専属女子部員を含めると優に10名は超えるのではないか。この大集団をして単なる「仲良しクラブ」の域を脱し勝利に向け歩を進めお互いが競い合う「燃えるクラブ」へと進化するには大きなエネルギーを必要とし主将・主務は素より幹部諸君の力量が問われるのではないかと痛感する。
 私が茨戸で垣間見たかぎり、艇庫内は整理されたし先輩に対するマナーも往時に比べると立派になった。これらについて注文をつける気はさらさらない。東北戦にしてもヘッドオブザ茨戸にしても一部茨水会先輩のお手数を煩わしたものの現役が主体となって整々として終えることが出来たし、それなりの収穫もあったと思うが、敢えて欲を言えば、常々思っている事であるが「勝利」への貪欲さ執念が不足しているのではないかと云うことである。

○北大の実力は
 インカレを観戦、日大・中大の漕ぎを見そして選手層の厚さを識り、北大の現状をいささか承知する者として大きなショックを受けたと云うのが偽らざる心境である。
 6分そこそこの実力、短距離走者の如く後半タイム落ちのない漕力は見事でありここ当分インカレが両校の鎬を削る場となるだろうとさえ思った。決勝に進出した東北大もタイム差20秒という大差で敗れ去ったのである。
 ペアが優勝その他小艇も決勝に進出したクルーがあったが、あの好条件で記録的にはどうであったか、優勝クルーとのタイム差はどうであったか冷徹に分析し自らの漕力を知る必要があろう。
 確かに杉藤コーチを迎えた時点と現在とでは北大クルーは成長し力をつけたと思う。しかし、
一方他校のレベルも着実に延びているこの現実も忘れてはならない。
 この茨水会会報の記事の中に、来シーズンに向けての決意なり抱負が多く語られるだろうが、それ自体結構な事である。昔話になって恐縮だが、昭和28年初冬、ボート部の存在さえ知らない全国の運動部先輩を身勝手にも当時の部員が手分けして訪問、「来年こそ自艇を建造し優勝します」と宣言し浄財を頂いた事を思い出す。優勝の喜びの中にこれで漸く諸先輩に非礼を詫び顔向けが出来るという安堵感もあった。横道にそれたが、ここで強調したいのは先ずは「吾の力を識る」そして言うからには酷かもしれないが「納得に足る一定の結果を出す」事であり、公約を果たした喜びは限りなく大きいものである。

○さてどうするか
 インカレ時(8/26)の報告会で私は「来シーズン勝利するには明日からが勝負である」と訴えた。新旧主将・主務の面々は忘れはしないだろうが、秋練習の成果は如何ばかりだったのか。その詮索はさて置き今は冬トレ真っ最中と思う。99年の晩冬茨戸での会議で当シーズンの主将は当年の冬トレ参加率は30%だったと報告、「今後はかかることの無きよう督励し成果を期す」旨新主将の力強い言葉もあった。しかし、今年春のエルゴデータを見るかぎりその成果は未だしの感が深い。エルゴの数値はクルーの漕力を計る恰好のバロメータであると聞く。多少の差は何とかなるが一定の格差以上では最早お手上げという話も聞いた。
 この事に信憑性を置くならば来春のエルゴの結果次第では早くも来シーズンの戦績を占う事になりかねない。ここで言いたいのは先ずは冬トレを重視し、各部員は自己のエルゴ目標値を定め鍛練を重ねる以外に道はない。
 小樽港に北海製缶という会社があり、その地下に艇庫があった。知る人は今では数少ないだろうが、その壁面に「ノー文句」と白ペンキで大書きした四文字が訪れた者の目に嫌でも飛び込んできた。当初、高校生であった私はとんでもない事を書いてあるなと思ったが、練習を重ねるに従い抵抗感は希薄化し、ここで育ったクルーが戦前・戦後を通じて幾度となく全国制覇したこと知るに及んで、これまたボート哲学の一面を端的に表現しているなと思った。又その折りコーチというものを知り、コーチとは無理偏に拳骨と書く厳しくも大変な存在である事をこの目で確認したが、コーチ不在のわがクルーは羨望の眼(まなこ)で看守った。
 つい筆が滑り脇道に逸れたが、今ここで現役諸君に昔話を持ち出して檄を飛ばす事など毛頭考えてはいない。それでもボートを漕ぐ馬鹿な輩が居たもんだという程度で十分である。
 さてどうするか、先程冬トレの重視を訴えたが、この先となると監督・コーチの領域にまで足を踏み込む恐れがある。がしかし現役諸君にはこれだけは訴えたい。杉藤コーチを迎えてから既に三年が経過した。今の三年生は三ヵ年も彼の教えを受けた事になる。ローイングの何んたるかを学んだと思うが未だ彼の真髄をしるには程遠いだろう。来シーズンは早くも最上級生である。貪欲に教えを吸収し下級生の模範と成らなくてはならない。思うに来シーズンは彼は現役諸君に次から次へと課題を与えその達成を迫る筈である。学業とスポーツの狭間で思い悩む場面だって起こりえようがその選択は君達個々人であり先輩連中がとやかく言う筋合いのものではない。
 監督・コーチがある日突然天から降ってきて、好き好んで現役諸君の面倒をみているわけではない。北大クルーをして優勝させんが為の熱き思いその一点に尽きる。また杉藤コーチを招致し、経済的支えとなっている茨水会諸先輩のこれまた熱き思いで看守っていることを片時たりとも忘れてはなるまい。この恵まれた環境のなか現役諸君はボートを漕いでいるのだ。