3年間の成果と今後の展望について

ヘッドコーチ 杉藤 洋志

 カラオケ屋に行って、歌が上手な誰かに場の注目が一身に集まったとします。歌があまり上手でないあなたは、歌がうまくなったらなあ、ときっと、少なくとも一瞬は考えるでしょう。でもそんなことは明日になったらきれいさっぱり忘れてしまうものです。スポーツも同じ、負けて少しも悔しくない人なんていません。誰だって勝ちたいと思います。本当に勝ちたいかどうかは、次なる機会まで、すくなくとも1年くらい、その気持ちを持続出来るかどうかに他なりません。漕艇部の皆さん、本当に勝ちたいですか?その問を毎日のように浴びせられる準備は出来ていますか?私は就任当初ならこんなことを問いかけたりしなかったでしょう。3年を経て、これから要求されるものはもっともっと厳しいものです。北大漕艇部の常識は、トップチームに値する常識に育ちましたか?厳しさの向こう側にあるなにかをつかみ取ろうとする確固たる信念を持っていますか?あるいは持とうとしていますか?漕艇部の基盤が整備された今、試されているのはわれわれの覚悟です。
 今シーズンを振り返り来シーズンを見据えるにあたって、北大での3シーズンの各指標の推移をいくつかの項目について検証してみようと思います。パフォーマンス面として、エルゴスコア、対校クルーのタイム比較、入賞数、を、クラブづくりの面として新入部員数とその定着率を、選手の意識面での指標として無遅刻・無欠席トレーニング日数率を、それぞれ表にしてみました。
 98年99年00年
エルゴスコア(MV8+、インカレ前最終)6:47.36:42.46:41.8
インカレ優勝クルー平均(推定)6:32.06:28.06:26.0
対校エイト2000M最高タイム6:09.06:07.06:04.0
学生エイト2000M最高タイム5:55.05:53.05:53.0
全日本大会8位以内入賞数61410
最高タイムに関しては、杉藤による主観的静水無風換算タイム

 98年99年00年
新入部員選手数(6月時点)393136
1年新人戦参加人数282831
2年春合宿時人数1918
定着率(%、2年時)4958

 98年99年00年
冬期練習フル参加日数率(%)233133
水上練習フル参加日数率(%)495459

 来期における課題はこれら全ての指標で有意な向上をもたらすことにあります。そしてスタンダード(必達目標〜Real Goal)として掲げられるべきは、インカレ男子エイトメダル獲得、男女それぞれ1種目優勝、男女総合3位以内、となりましょう。そして目標(Dream Goal)は、それら全てでの頂点のほかありません。各々の指標でのガイドライン(目標、ではなくスタンダードをクリアするための目安)を以下に記しておきます。
 エルゴスコア:シーズンイン(4月茨戸艇庫開き)までに、男子対校平均6:32以内、男子全員7分突破、女子対校平均7:40以内、女子全員8:10突破。
 新人:男子選手30名、女子選手8名。人数はこれまでと同様だが、ロウイング経験者、高レベル競技経験者(全国大会経験者など)、体格優秀者、運動能力優秀者、モティベーション優秀者など、より競技志向の強い、「質の高い」人材を以てこの人数とする。定着率は60%台達成。
 トレーニングフル参加率:100%

 優勝を口にする前に、トレーニングへの真剣な取り組みを一気に急上昇させなければなりません。表中のフル参加率とは、全体練習日の総数に対して、遅刻・無断欠席などがなくトレーニングセッションを行うことが出来た日数の率のことです。体調不良や故障による欠席は含まれていません。クルー(もちろんスカラーも含めて)におけるトレーニングプログラムを100%こなすのはまず大きなチャレンジです。練習が厳しくなれば体のコンディショニングの点で量や質を下方修正することは当然起こってくるでしょう。上のグラフには加味されていないその要因を含めたうえであったとしても、トレーニング消化率を限りなく100%に近づけて行かねばならないのです。もっと練習量を増やせとのお叱りは多々うかがっておりますが、まだまだその段階ではありません。これ以上質の向上が困難と判断できたときが量の向上のタイミングであると考えます。この課題に関しては選手諸君のこれ迄の向上を踏まえつつ、さらなる飛躍的な意識改革が重要なポイントです。
 来期目標達成のための戦略は、自主性の開拓という言葉に尽きます。トレーニングの個別化に最も有効な時期である冬期トレーニングは、練習しながら自らを追い込み、試して行ける合同メニューを中心に組み立て、そこに加えて自主裁量でのメニュー設定を大幅に取り入れます。その助けとするために、多項目の体力測定を実施して個々人の体力的課題を明確に認識することと、トレーニングの科学的根拠を学習することとを並行して実施し、より効率の高いトレーニングを目指します。乗艇練習は過去3シーズンの競争重視の組み立てを堅持しながらも、今年ははじめてインカレ最終日進出経験のある3・4年生漕手が対校エイト必要人数を越えたシーズンであり、対校エイトクルー候補者の絞り込みは春合宿早々から行います。女子に関してはメイン種目の存在が曖昧なだけに、種目にこだわらず優勝を狙ってクルー編成し、対校クルーとします。2年生漕手に関してはその時点での力量と故障のリスクを充分配慮の上で候補に入れるかどうかを判断します。
 私がコーチとしてモットーとしているのは、目標をつねに意識すること、個人の表現の場を提供すること、公正であること、です。ロウイングというスポーツは、その人の努力に必ず応えてくれるスポーツです。努力とは何か。最も困難でかつエキサイティングな努力とは、自分を変革することです。夢、知力、体力、技術、感覚、精神力、経験、などなど自らの全てを投入して自分を鍛えることです。たとえば提示されたメニューをただガムシャラにがんばることなど到底努力とは呼べません。そのロウイングに立ち向かう者は、全員が平等です。その人の魂に見合う場が必ず与えられます。ただ注意が必要なのは、平等を勘違いしてしまうことが往々にしてあることです。学生諸君、選手達だけでなく、マネジメントやコーチングなどサポに携わる諸君も含め、まだまだ北大クルーは甘い。もっともっと奮励努力して、君の今を、全てをぶつけてくれたまえ。それが全力というものです。今の全力は、後に振り返ると、その時の全力でしかなく、未来の自分はもっともっと大きくなって、全力のレベルはどんどん上がって行くのです。

 そもそも私が北大との契約を決めたのは、私の生来のエエカッコシイな反骨心からだったと言えるでしょう。カナダでコーチングを学んでいた私に、北大コーチ就任の申し入れがあったのは帰国を2ヵ月後に控えたときのことでした。私本人に寄せられたなかでは最後に滑り込みで舞い込んだオファーでした。まさか茨水会がフルタイムで雇用を言ってくるなんて、と驚天動地の思いでした。会費納入率50%に満たない脆弱な組織であることを例に出すまでもなく、茨水会内部の厳しい現実は良く知っているつもりでしたし、会と現役部員達との接点の少なさも承知でしたから、ハナから断わるつもりでした。でも、一度も現場を見ずに断わるのは先方に失礼だと考え、国内のオファーについては全て雇用者に会う、または現場を見る、ということをしました。北大の練習を見たのは新人戦でちょうど2年生達が遠征している最中でした。それまで世界のトップを目の前にしていたということも相まって、北大の練習のお粗末さに愕然としました。練習がお粗末ということは、すべてにおいてお粗末であることを意味します。私はその予想以上の荒廃ぶりに「やってられるか」とは逆に言えませんでした。この事実を目の前にして背を向けるのは逃げの姿勢だ、と考えるにいたり、なかば勢いで北大を立て直すことを日本で最初の仕事にしようと考えたのです。
 それから3年経た今、北大が立て直ったかどうかを判断するのは、皆さんにお任せします。私の印象としては、自分が考えた以上にさらに厳しい仕事ではあったが、常に上位を争う準備は充分整えることが出来た、といったところです。もっともっと強いチームに出来たのに出来なかったという自責の念から、自信喪失に近い状態だった私を救ってくれたのは、形は違っても最も私と近いところでロウイングをやっていた同期生が最近私にかけてくれた一言でした。「あそこまでやるとは思わなかった。」
 私は来年(2001年度)以降、クラブを動かす主体を漕艇部に少しずつ返していくことにしました。現役時代から私が幾度となく言ってきたことですが、漕艇部とは現役学生の集合体を指しているのではありません。ロウイングの最大の喜びである「艇速を増す」という作業を、北大の名前を背負ったクルーで表現しようとすることにエネルギー(その大小に関わらず)を割く人全ての総称です。かなり乱暴にロウイングの喜びを規定しました。私はそう信じています。一生の友人を得ることも、自然の中の自分と向き合うことも、魂を燃やして命の輝きを実感することも、自身の眠れる可能性を探ることも、「艇速を増す」ことに没頭することから派生してくるにすぎません。
 3シーズンの簡単な総括としてこの原稿を書きました。今後については、どうか現在の戦力と大きく開かれた可能性をフルに活用してください、とだけ申し上げておきます。私は北大漕艇部がプロフェッショナルな集団になることを望んでいます。私は北大漕艇部がクルクルパーになってしまうのを望みません。いまのチームが、さらにもう一枚壁を破って、常にメイン種目でトップを争うだけのチームに成長するエネルギーを、皆さんの主体性を以てそれに充てることを願うのです。そこに私の力がやはり必要であるならば、もう一度契約交渉をしてください。そのテーブルにつく準備はもちろんあります。