JOCレポート2
<カナダボート競技ナショナルチームの仕組み> カナダボート競技ナショナルチームは温暖な気候のビクトリアに、全国にニつあるナショナルハイバフォーマンスセンターのひとつを置いている。もうひとつは東部オンタリオ州のロンドンにある。男子はビクトリア、女子はロンドンに例年は分かれるが、オリンピックイヤーの95-96シーズンでは、秋口から織烈なトレーニングと選抜が続いたため、男女ともビクトリアでトレーニングを行った。
国土の大半が冷帯や寒帯に属するカナダにおいて、エルク湖は唯一といっていい、年間通じて質の高い練習のできる水域である。カナダの西の果ての町にトップ選手が集うことを可能にしているのは、そんな地理的有利に加えて、近年のカナダチームが人生を賭けるのに価する大活躍をしている魅力を待った集団であること、後述する金銭的サポート、があげられる。転居や転職にあまり抵抗を感じないカナダの人々の「移民魂」とでも言うべき騎馬狩猟民族的な自由人気質もー役買っていると思う。ますます厳しさを増す世界チャンピオンへの道のり、ビクトリアに住んでトレーニング三昧の日々を送ることが求められるアスリートたち。これは、成果すべてをロウイングに捧げる覚悟がないのなら国際的な成功は得られない、という考えが浸透している現れであろう。
「ナショナルハイバフォーマンスセンター」などという名前には圧倒されてしまいそうだが、ビクトリア漕艇連合のエルク湖ボートハウスのー角にナショナルチームの艇やオールを入れてそう呼んでいるだけで、その眼前のエルク湖が「プレイするためのフィールド」で、ウエイト設備はビクトリア大学のジムと契約して借用しているという、呆れてしまうほど簡素なものである。 カナダにおいては、俗にカードと呼ばれる、選手を金銭的にサポートするプログラムが存在する。政府機関のスポーツカナダが出資して、国際試合で上位に進出する可能性のある、現在活動中の(活動を休止又は停止しているものは含まれない)選手は、生活費及び合宿参加や試合出場のための遠征費に補助が受けられる。その補助金受取の権利を保有している選手は、専用のIDカードを持っていることから俗に「カード保持者」と呼ばれるのである。カードにはAからDの4つのランクがあり、支給される金額はランクによって違っている。原則としてAからCは前年のオリンピック又は世界選手権の成績からランクが付けられる。メダリストがA、総エントリー数の半分以上の上位に進出した者はB、代表になった者はC、となっている。Dは代表になったことはないが、将来有望な若手選手に対して2年以内のみ与えられるカードである。
競技での支給カード数は予算と国際的な競技力の高さに応じてスポーツカナダが決定し、各競技団体が誰にどのカードを与えるかの決定権を上記の原則に則して行使している。支給額はAカードで月額約900カナダドル(カナダドルは米ドルの約70%の価値)と決して多くなく、ほとんどの選手は厳しいトレーニングの間を縫ってアルバイトをして生活費の足しにしたり、家を数人の選手で借りるなどしてつつましく暮らしている。オリンピックイヤーでは選手個人やナショナルチームにスポンサーがつくため、ほぼフルタイムアスリートとなることが可能である。数人のスター選手は高額なスポンサー契約を結んで完全なプロとなっている場合もある。反面、カナダは先進諸国でもっとも厳しい行政改革の真最中で、スポーツカナダの予算は減少一方なために、世界選手権代表のレベルではカードをもらえないという場合も出始めている。
コーチの給与は、協会が個人との契約に基づいて支払っている。95-96シーズンはフルタイムコーチ4名とパートタイムが3名(うち1名はボートマン兼任)、96-97シーズンはそれぞれ3名と1名が活動した。これはいずれも、「アトランタまで」と「アトランタ後シドニーまで」の体制と言える。モスクワオリンピック終了の頃から、フルタイム契約でコーチングにあたるスタッフの陣容は五輪後に新体制が組まれ、次回五輪まで4年間その体制を保つというやり方が確立された。男女、重量軽量、あわせて4つのカテゴリーについてー人がひとつないしニつを担当し、4年間の責任を負う、ヘッドコーチは事実上テクニカルディレクターとして全責任を負う、というやり方である。トレーニングの計画性や長期的目標の設定を重視したすぐれた体制だと言える。結果の出ない年があってもチームを信頼しているのか、オリンピックまではフルタイムコーチの首を切ったりしない協会というのは、辛抱強さも、競技に対する深い理解も、特筆に価するであろう。 ナショナルチームは専任チームコーディネーターをフルタイムでー人雇用している。ペーパーワーク、渉外、秘書業などをこなしている。ナショナルコーチの連絡先は公表されておらず、コーディネーターが連絡の窓口になっている。不必要な雑務や諸連絡からナショナルコーチを守る防波堤、という側面も持っている激務である。他に、ナショナルチームはアドバイザー契約のような形でドクター栄養士、スポーツ心理学者、ウエイトトレーニングアドバイザー、マッサー数名をパートタイム雇用している。これ以外にもNCI講師陣がそれぞれにナショナルコーチたちの相談役となっている。
ナショナルチームのメンバーそれぞれが確保した自宅からハイバフォーマンスセンターに通う。エルク湖は日曜日以外の朝8時から12時まで、1ナショナルチームが独占的に水面を利用する。その間に2回の乗艇練習をする。
水曜以外の平日の午後はジムでウエイトトレーニングを行う。典型的な1週間のトレーングスケジュール(別表2参照)は、月から土曜日が合同練習の日となっており、1日で2または3回のトレーニングセッンョンをこなしている。日曜日はオフとなっている。総計で1週間に16から20のトレーニングセッンョン、20-25時間のトレーニングをする。これは国際的に見ると、比較的トレーニングセッション数は多く、総トレーニング時間は多いほうに属するが、1回のセッションあたりりの所要時間は平均的か少なめである、といえる。他の諸国を例にとると、デンマークは週10セッションで12-15時間、イタリアは週20-28セッションで26-35時間、中国は週14セッションで25-30時間、などとなっている。
通常、1回目の練習(およそ8時から9時半)で肉体的にハードな乗艇練習を行い、2回目の練習はアクティブレストとして軽めの乗艇練習(しばしば技術練習と位置づけられる)を行い、3回目の練習でビクトリア大のジムでウエイトトレーニングをする。朝1回目の練習で、月・火・木・金はカテゴリー5/6(別表3参照)の低強度のトレーニングを、水・土はカテゴリー4以上に強度を上げて夕イムトライアルをする。これらのタイムトライアルの結果は選手選考の資料のひとつとなっており、トップチームのクルーと下位の挑戦者たちが同じコースを漕ぐ。挑戦者にとっては好タイムを連発すれば上位のチームに加入できるチャンスになるわけである。
このタイムトライアルで、選手は常に選考の手順にさらされている。これら毎週の「トライアル」の他に、年間3または4回の大きな選考会がある。第一がカード授与を決定する選考、第二がクルーを編成する選考、第三が Rowing CanadaAviron(カナダボート協会、以下RCA)による、国際試合派遣クルーを決定するトライアルであり、これらに加えてオリンピック委員会派遺の競技会にはカナダオリンピック協会によって、上位進出の見込みのある無しを基準として代表認定の成否を決める選考がある。
表−1 典型的な1週間のトレーニングスケジュール
期間:General Preparatory Phase
日時:オリンピック決勝まで 25週間
クラス:男子重量級スイープ
セッション数:17
トレーニング総時間数:20時間
漕いだ距離:176 Km
月 火 水 木 金 土 日
午前8時から V VI III/IV V VI III オフ
VI 3x4Km 4x2Km T.T. T.T.
午前11時から VI VI VI VI VI エイト 技術 技術 積極的 技術 技術 乗艇 練習練習 休養 練習 練習
午後5時から WT WT VI WT WT 上半身 下半身 積極的 上半身 下半身 4種目 4種目休養 4種目 4種目 3x8RM 3x8RM 3x8RM 3x8RM
III,V,VI のローマ数字はトレーニングの生理的カテゴリーを示す。
心拍数 1ピース時間ワーク/レスト比 内容 (分)
III - 180-200/分 6-10 2-0.5 ・4x7分 ・3x2000m・5x5分
IV - 165-175/分 10-45 4 ・2x20分(SR change) ・3x5Km Time Control・5x5分 Strength-Endurance Water (Race rate マイナス 2-4)
V - 150-165/分30-90 - ・定常漕 (Race rate マイナス 10〜12)
VI - 135-150/分 >45 - ・45-120分低強度定常漕 (Stroke rate 18-24)
艇種は特に表記のない限り舵手無しペア。 WT(ウエイト)はバーベルを使用したフリーウエイト・トレーニング。RMは 1セットの反復回数。
第一の選考は、カナダ国籍を持つすべての選手が参加できる小艇のみのレースで行われる。舵手なしベアとシングルスカルで選手権試合をおこない、一定以上の上位進出者が代表候補選手となる。ボーダーライン上の選手はシートレースでさらに詳しい選考資料を得て選抜される。 (注:シートレースとは、二つのクルーを1回レースさせたあと、両クルーの1 人の選手を交換して同様のしースを再び行い、タイムや艇差の変化から、乗り換えた 2名の選手の力量を比較する選考方法。)
小艇を使用するのは、舵手なしベアがスイーブボート(一人の漕ぎ手が1本のオールを操る種目の総称)の、シングルスカルがスカルボート(一人の漕ぎ手が2本のオールを操る種目の総称)の、いずれも最小単位であり、しース結果が選手個人の力量の反映であると考えられるからである。こうして選抜された代表候補選手は上述のカードを授与される。
第二の選考は、トップチームで活動する代表候補たちを母体にして、クルーを編成する選考である。シートレースで各選手に序列が付けられ、重点強化種目から順にクルーが編成される。
第三の選考は、こうして編成された各艇が、一斉に2,000メートルのタイムトライアルをして、各クルーの国際試合での上位進出の可能性をタイムから評価することによって行われる。あらかじめ RCA科学委員会によって設定された「今年度世界選手権予想優勝タイム」と比較して、そのスピードが何%に達しているかによって、男女・重量軽量のカテゴリーに関係なくすべて序列が付けられる。
序列上位のクルーは代表としてRCAの予算で遠征する。下位のクルーでは代表権のみを得て遠征費用はー部または全額クルーが調達する、となり、さらに下位にランクされると代表権さえ得られないことになる。
第四の選考は、代表として戦ったワールドカップなどの試合の結果から、カナダオリンピック委員会がオリンピック(またはパンアメリカ大会、英連邦大会)上位進出の可能性を基準に代表権獲得か否かを決定する。
これら選考の手順に関しては、実戦でどれだけの力が発揮できるかがより重要視されていることと、シーズン終盤まで選考を続けることで、緊張感を保とうとしていること、が言える。幾多の強豪国のひしめく欧州各国のクルーは、毎年前哨戦となる国際レースに数多くこなしながら準備を進めて行く。カナダの厳しい何段階もの選考プロセスは、欧州から物理的に遠いカナダで少しでも多くの大舞台を経験した選手を育てる必要があるという実情にも合致すると考えられる。このような国際レース経験不足を少しでも解消するために、選考第一段階の小艇選手権に、隣同志のカナダと米国がお互いの同様の試合に選手を派遣し合っている。
すべての選考の実施時期は各シーズンの日程によって毎年違うが、前シーズン最後のレース(オリンピックまたは世界選手権)終了後1か月以内に選考の日程・手順・基準が同時に公表される。
さて、上述したようにカナダのナショナルチームのトレーニング時間は世界的水準の中では多いほうに属している。これは低強度での運動中心の練習でなるべく長い時間を漕ぐことによって、骨格筋の酸素利用(ユーティリゼイション)能力を向上させつつ、運動の機械的効率を洗練させようという考えのもとに立っている。ナショナルチームと、それを見習って盲信的に練習量をこなす多くのクラブが、トレーニングしすぎであると指摘している人も、科学者の中には多くいる。その所見にもー理あると私は思う。長いトレーニングで選手は常に疲労した状態にあり、技術的な問題点が置きざりにされる、ウエイトトレニングに効果があらわれない、精神的ストレスを感じる、疲労性の傷害が発生する、等の問題が常に付きまとっている。肉体的・技術的に完成に近づいた選手にとって、長い時間をかけて得られる、ほんのすこしの機械的効率の上乗せは、あとほんの少しのパフォーマンスの向上を目指すひとつの道であり、そうやって世界で多くのー流選手が、「超」一流になった。だがそれがただひとつの道であるわけではない。多くのファクターのなかで何が重要であるかを判断してトレーニングプログラムを作成していくことがそれぞれのコーチに課せられた課題だと言えるだろう。
そのほかカナダナショナルチームについて印象的なことを以下に記そうと思う。第一に、世界のトップを行くカナダ代表のボート選手たちは、やはり途方も無く強い。選手たちのあふれんばかりの素質とか、資金的な有利とか、コーチ陣のレベルの高さとか、生理的能力の高さとか、技術の洗練とか、精神的なタフさとか、それらはすべて然りであろう。だが、カナダ代表の強さを支える究極の秘密とは、ナショナルチームが、真の意味でのカナダのボート界の総力を結集したチームである、と言うことだと.私には思えてならない。米国、豪州、英国などはカナダに数倍する多数のボート人口を抱え、またいずれの国においても、名門の大学やクラブの競技力はふつうの国のナショナルチームを凌駕するほどの高さに達する場合さえある。日本もカナダよりも多くの登録選手人口を持っている。
日本を含めこれらの国に共通するのは、国内のボート界の仕組みが、ナショナルチームの活動や強化に足枷をはめていることである。 たとえば、クラブにとって大切なしースのために、有力選手のナショナルチームへの挑戦をクラブの意向が妨げる等はよくある話。環境を整備すべき立場にある協会の主要ポストは、有力大学のOBが支配していて、母校の名誉維持のために国内でいがみ合うことが、ナショナルチームの強化に優先してしまっている。トップと底辺の交流、クラブ同志の横のつながり、これらが共に乏しい中で、技術や競技そのものに対する理解が各々のクラブで硬直・変質して、選抜クルーがハーモニを奏でにくくなってしまっているようにも見受けられる。コーチ教育制度があまり浸透していない。
カナダの強さは、国内のボート界全体がナショナルチームをサポートしているからなのではないか。人心、才能、努力、頭脳、資金、が結集されているからではないのか。現在強豪の勇名を馳せるカナダのボートも、ビクトリアを中心とする西部とオンタリオ州つまり東の融和が実現するまで、長い雌伏に甘んじてきたという。社会的背景の違いはあっても、日本ボート界が、全体として本物の「チームワーク」を発揮できた日が、日本ボート界の夜明けの日になると信じている。
カナダチームの乗艇練習の最大の特徴は、小艇至上主義と実戦主義である。日々のトレーニングは、最大目標である試合(五輪、世界選手権)の約12週間前までは70%以上の割合で舵手なしベア、シングルスカルなど小艇に分乗して、紬先を並べて練習する。大艇(フォアおよびエイト)に乗ってクルーとしての洗練を目指すのは、直前になってからでよい、選考は続行中であると印象づけて危機感をあおる。小艇で個人個人の力量アップを目指す、日々競い合うことでレベルアップを図る、競り合いのプレッシャーに慣れる、等の理由からである。毎日の練習が競争であること、頻繁に行われるタイムトライアル、何段階もの厳しい選考、実戦での力量がシビアに評価されるのだ。
繰り返しになるが、カナダの選手たちは、エリートレベルでも、その下でも、誰もが実に多くのトレーニングをこなす。それ自体は悪いことではないのだが、トレーニングの目的に関する理解のないままただただ長距離を漕いだり、あるいは、量をこなすのが競技力向上の唯ひとつの道であると信じている人がいたり、とそのように見受けられる。多くの場合、ときにはナショナルチームのレベルでもトレーニングの質を置きざりにしているように私は感じた。88年ソウルで悪夢のメダルゼロのあと、再生のためにヘッドコーチに起用された英国人コーチのスプラクレン氏は、「Mileage makes a champion.」(距離がチャンピオンを作る。長く漕げば漕ぐほど強くなる。)を合言葉にして、練習量をぐっと増加させ、カナダはバルセロナで4つの金メダルを獲得した。そのときのカナダも、現在のカナダも、確かに強い、でもそのカナダのクルーに半分強ほどの練習時間で勝つクルーがいるのもまた真実である。カナダは「Mileage makes a champion.」の呪縛から逃れるべきである、などとはあまりに僭越であろうか。
私はカナダでの2年間の自分のコーチングを通じて、幾度となくこの議論にさらされた。要は、自分のコーチングのやり方は自分が作り上げるのが大切なのだ、と思う。
カナダナショナルチームのウエイトトレーニングは、筋生理学者のエド・マクニーリー氏がアドバイザーとなって基本となるプログラムを作成しているが、実際は選手個人個人の手にまかされているのが実情で、この分野がカナダチームでもっとも改善の余地があると思われた。(ただし、男子軽量級チームに関しては、自身が運動生理学博士でもあるコーチのヴォルカー・ノルティ氏のコントロールで行っている。)具体的なプログラムは性別、階級、また個人によって異なるが、おおむね以下のことはチームのコンセンサスとなっている。
姿勢制御筋のバランスよい発達を重視して、マシンは使用せずフリーウエイトによって行っている。1回の最大挙上重量の計測はせず、与えられた挙上回数の最後に挙上不可能となる重量を選択する方式をとっている。
<スペイン特別研修> 私は1997年の1月6日から2月16日までの間、世界漕艇協会連盟(FISA)主催のコーチングアカデミーに参加した。アカデミーはスペイン、カタルーニャ地方の首都バルセロナから北に100kmに位置する地方都市バニョレスを主会場として開催された。バニョレスは、温暖な気候、風がめったに出ない、物価が比較的安い、などの好条件から、以前から欧州各国の真冬の合宿地として人気のあったところである。このアカデミーはFISAにとってもはじめての試みで、受講したのは私を含めて11か国15名のコーチである。私は幸運にも日本漕艇協会のサポートを得て、参加要請を受諾された。
ボート競技は参加者数およびメダリストに占めるヨーロッパ人の割合が非常に高い競技である。これはボート競技が未発達なスポーツであるひとつの傍証と言える。このアカデミー開催の目的は、世界各国の競技力を向上させ、より拮抗させること、そのための手段として若手のコーチ達の能力を向上させること、である。 コースコンダクターを務めたのは、トール・ニルセン氏(ノルウェー)。過去スカンジナビア諸国、スペイン、イタリアなど彼がヘッドコーチを務めた国々はことごとく世界の漕艇界をりードする存在となり、そのキャリアと彼自身の世話好きな性格から、世界中のコーチや選手達の尊敬を集めている人物である。スポーツ科学に関する造詣も深く、コンダクターにはまさにうってつけの人材で、このアカデミー自体が彼の発案だったようだ。彼の他に多くの著名なコーチや科学者などが客員講師として働いてくれた。ニルセン氏夫妻と我々参加者は期間中バニョレス湖を望むホテルに宿泊した。客員講師たちは数日の単位で同ホテルに宿泊した。講義やディスカッンョンはホテル内の力ンファレンスルームかスポーツクラブの会議室でおこなわれた。コーチング実践の部分は言うまでもなく湖畔そして湖上で行われた。 (注:バニョレス湖は91年Jr.世界選手権、92年五輪の会場で、スポーツクラブの建物はその際には艇庫および本部として使われた。)
序盤の2週間はほとんど室内ですごし、論義を聞いたりディスカッンョンをしたりが主となった。その後も講師達による講義は6週間にわたって継続して行われた。中盤の2週間は、客員コーチの実際のコーチングを観察したり、さまざまなテストの予行演習をしたり、テストの進め方(テスト項目の選択、プロトコール作成)をグループディスカッンョンを通して決定したり、機具のキャリブレインョンをしたり、が主な活動になった。終盤の2週間は、集まってきたヨーロッパ各国の代表レベルの選手達を題材にしてプラクティカルコーチング(コーチング実践)の研修をし、最後の3 日間は参加者全員の評価のために使われた。
評価は6項目からなる。
1.技術観察
バニョレス合宿中の代表レベルクルーを4,000mのあいだ観察し、そこから得た印象を随時モーターボートに同乗する試験官に話し、その内容、特に観察の正確さが評価される。どのクルーを観察するかは直前まで受験者には知らされない。
2.練習計画
1での観察をもとに、クルーの次回の技術トレーニングセッンョンを計画して文書にして提出する。その内容が評価される。
3.講義
題材を自由に選択して10分間のブレゼンテーションとそれに続く5分間の質疑応答を行う。質問をするのは試験官と参加者全員。 内容の高尚さは求められず、むしろ準備、時間管理、資料やOHPの見やすき、コミュニケーションスキルなどが評価の対象になる。
4.口頭質問
アカデミーで論じられた基礎知識について20問
5.継続的評価
6週間での、アカデミー全体への寄与、討論での積極性など。
6.ディブロマ
すなわちアカデミー終了後3か月以内に5,000語からなる論文を提出する。題材は自由だが、ロウイングの実践的研究であること。「試験官」兼評価者はコンダクターとアシスタントの2人、計3人が務めた。
アカデミーに参加できたことの収穫はとても数えきれない。とりたてて特別な新情報と呼べるものがあったわけではないし、もとよりそんなことを望んでいたわけでもない。それでもやはり思わず「ヘー」とつぶやいてしまうような意味深い考え方に出くわしたり、科学者達にはこれまでに得た知識を深めていただいたり、あるいはくつがえされたり、講師を買って出てくださった経験豊かなコーチ達のさまざまなやり方を観察したり、と有意義な時間を過ごすことができた。
欧州の強豪国のコーチたちが講師または研修生として来ていたので、さまざまな強化の手法に触れられ、カナダを含め各国のアプローチをより客観的に眺められるきっかけを与えてくれた価値ある6週間であった。さらに、参加者全員が時間を共有して意見を交換しあうことができたのは、現在の私の大きな財産である。
この稿おわり