はじめまして。杉藤洋志と申します。私は、北海道大学大学院修士課程に在学中の身ですが、日本オリンピック委員会のスポーツ指導者在外研修制度による派遺が認められ、ここカナダ・ビクトリアでコーチ学を学んでいる者です。
予定の期間は1年間で、さら1年間の延長を申請中なのですが、この貴重な時間のうちの1ケ月が早くも過ぎ去ろうとしています。
私は、日本漕艇協会の推薦を受け、この地で勉強をする機会を与えられました。いわば、本誌の読者である皆様に与えられた機会でもあるのです。これから折に触れて、私の見聞したこと、感じたことなどを本誌に掲載させていただき、この体験を少しでも皆様と共有したいと思っています。どうか、よろしくご愛読のほどお願いします。
とりあえず、初回にあたる今回は、なぜ私が在外研修員にたってこの地へ来ることを希望したか、そして研修内容のあらましについて書きたいと思います。
私は、1995年夏までに11シーズンを糟手として過ごしました。内訳は、3年間を公立高校のボート部で、4年間を国立大学のボート部で、さらに4年間を個人的にトレーニングをして過ごしました。
その経験を通じて強く感じたことは、自分はある特別な期間を除いてはコーチングを受けることが特になかったか、コーチングとは言いがたいくしごきを受けたか、あるいは(大変な努力を払ってくださった先輩方には失礼きわまりないのですが)あまり有効でないコーチソグを受けて過ごしてきた、ということです。
「ある特別な期間」の意味するものは、大学のボート部に外国人コーチ(米国プリンストソ大学女子チームのコーチ、ダン・ルーク氏を招捜した2ケ月間と、自分が代表チームで過ごした、つまり、前日漕専任コーチであるドリュー・ハリソソ氏のコーチソグを受けた期間です。
彼らに共通したものは、尊敬すべき人柄、ロウイングへの愛情、ばれた技術理論、観察眼、そしてコーチングに対する強烈なプロ意識でした。
私は、ロウイングに触れる前にも多くのスポーツをしてきましたが、彼らのような指導者に巡り会うことはありませんでした。
単に私が優れた日本人指導者について知らなさ過ぎるだけである、ということもできるかも知れませんが、彼らの果たした仕事は、私にとって衝撃的であり、日本の常識の範疇では考えられないもののように感じられました。
彼らの背を追って糟手をする傍ら、11年間のうちの後半5年間はコーチの真似事もしてみましたが、自分が有効なコーチングをしているとは、とても自信を持って言うことはできませんでした。その5年間は、私が日本代表として世界各国に遠征した5年間に重なります。大きな努力を払って試合に臨んでも「世界の壁」にはいつも悔しい思いをさせられました。
強豪国の選手たちは、私の想像を絶する強さを見せるばかりでなく、ロウイソグを心から楽しんでいるように見えました。各国の初心者の漕ぎを見かける機会も何度かあったのですが、彼らはー様に楽しげにオールを握っていました。それらを見るたびに、自分の競技力の低さ、そして心からロウイングを楽しんでいる、と胸を張って言うことのできない自分が恥ずかしく思われました。その思いは、一体自分と彼らの何が違うのか、との問いになり、やがて、彼らの真っ只中に飛び込みたいという強い気持ちに変って行きました。
強豪といわれる各国には、必ず優れたコーチが存在します。彼らのほとんどはプロです。もちろん、強豪の強豪たる所以は、優秀なコーチが付いていることだけではありません。組織、マネジメント、テクノロジー、資金、社会、文化など大変多くの要因が重なり合っての結果です。
ですが、それまでの自分の経験が関係しているからかどうか分りませんが、自分自身が、これまでの日本に存在しなかったような、スポーツが生み出す価値を最大限に選手や社会に対して供給できるようなコーチになりたい、と考えるようになりました。
ドリュー・ハリソン氏にコーチ教育についてはじめて話を聞いたのは、1993年の世界選手権会場でのことでした。彼は実際的な教育制度を持つ国として、オーストラリアとカナダを挙げました。両国はともに、その前年のバルセロナ・オリンピックのロウイング競技において、またそれだけでなく多くの競技で成功を収めた国であり、非常に興味をそそられました。彼は以前カナダのナショナル・コーチを勤めて以来、カナダに在住している(彼自身は米国人)関係で、カナダの教育制度に明るく、それについて詳しく教えてくれました。
彼の助けを得て、その時から準備をすすめ、今年9月、正式にカナダ国立コーチング研究所(NCI=The National Coaching lnstitute)に受け入れられました。
カナダのコーチ教育制度は、国家コーチ免許制度(NCCP:National Coaching certification program)といわれています。
カナダ・コーチング協会(CAC:Coaching Association of Canada)が主管しており、化学系企業の3M、カナダ連邦及び州政府、各競技団体、そしてNCCP取得のためにセミナーに通うコーチ自身、の4者が出資者となって運営されています。
免許は5つの段階に分れており、それぞれの段階の免許が、対象となる選手のしベルをコーチするために必要とされる免許内容、となっています。
(レベル1)は初心者、(レベル2)は競技者、(レベル3)は州代表者、(レベル4)はカナダ代表をコーチするのに必要とされています。(レベル5)を所有するコーチは各競技
に非常に希少で、比較的多いロウイングでも10人に満たない数です。彼らには、テクニカル・ディレクター(競技技術に関する見解を統一し、代表チームおよびコーチ教育の責任者となる役職)や競技団体における重要なポストなどの役割があります。
カナダ代表チームのコーチとしてオリンピック代表となるには、少なくとも(レベル3)の免許を持っている必要があり、ロウイングをはじめ多くの競技においては(レベル4)を持っていなければなりません。(レベル4,5)は、それぞれが理論(Theory)、技術(Technical)、実地(Practice)の単位に別れており、理論理論と実地は各競技団体が単位を与えます。
(レベル4、5)は、別表-1の20の課題(Task)についてリポートを作成し、定められた12項が認められると、(レベル4)の免許が取得でき、(レベル5)は、残りの8項が認められ、さらに10年以上の代表チーム・コーチ、あるいはそれに代わる経験をもって免許取得となります。
例外もありますが、多くの場合、(レベル4)取得のためには、NCIのー員となって、専門の学者によるアカデミックな教育と、各競技団体が認定した非常に能力の高いコーチ(High performance coach)のアシスタント活動とを通じてリポートを作成します。
ここビクトリアは、太平洋の暖流と低緯度によって、カナダでは最も温暖な気候で、降雪・結氷がないことから、多くの夏のスポーツのカナダ代表チームのトレーニング・センターがあり、それゆえにNCIビクトリアのコーチ研修員のほとんどは夏のスポーツのコーチです。
NCIはカナダ国内にもうーつ、1988年の冬期五輪開催地であるカルガリーにあり、そこでは、多くの冬期スポーツのコーチが学んでいるそうです。
NCIビクトリアは、1994年に当地で開催された英連邦大会(Commom Wealth Games)をきっかけに、国外の原則として英連邦諸国のコーチにも門戸を開きました。それ以外の国からの研修員は私が初めてということになります。
NCIビクトリアの現ディレククーであるビル・トムソン氏は、前カナダ・サッカー協会テクニカル・ディレクターであり、彼がJリーグの名古屋グランパスを指導するために、私の故郷である名古屋を訪れたことがあります。私事になりますが、そのときに彼と会うことができた幸運なくして、現在の私はなかったでしょう。
NCI入学許可の必須条件として、(レベル3)の免許保持者であること、という条項があります。私は現在、(レベル2)のコーチであり、(レベル圏)は取得途中なのですが、留学生の特例措置として入学を認めていただきました。
現在、私は、スティーブ・ブリッジ氏とともに、現地のクラブであるビクトリア市ロウイング・クラブの男子シニア選手をコーチしています。20名ほどの彼らの中には、ナショナル・チーム選抜のボーダーライン上にいる非常にレベルの高い選手も多く含まれています。彼らの中から将来のカナダ代表を背負う選手が現れ、そして、その彼らを、私がコーチとして参加する日本代表チームが破る、というのも私がいま描いている夢のーつです。
私と彼らは、毎日工ルク湖の水上で会います。現在は、世界選手権後の休暇を楽しんでいるナショナル・チームの選手・スタッフたちも間もなくもどってきます。
9月から新学期ということで、多くの高校生、大学生も一生懸命トレーニングしています。
ビクトリア出身のスポーツ・ヒロインであるシルケン・ローマソ選手[彼女には、TVのCMでカナダ中どこでも会うことができます)の彰轡でしょうか、最近、ロウイングに取り粗む若者が急増しているそうです。マスターズ選手としてトレーニングしているドリューとも、湖上で毎朝のように会っています。私たちは、皆一つの艇庫を共有している仲間です。
次回からは、皆様が興味を持たれているカナダにおけるロウイング、そしてコーチ教育の実際について、もっと詳しく書こうと思います。
本稿に関する意見・感想を是非お聞かせください。
別表−1:NCCPレベル4/5 課題一覧
(1) エネルギー供給機構 (11) 戦略及び戦術
(2) 筋力トレーニング (12) 年間計画
(3) 風及び水流による影響 (13) パフォーマンス分析
(4) 栄養 (14) 強化合宿
(5) 環境要因 (15) 遠征
(6) 休息 (16) 長期的育成計画
(7) 精神的熟達 (17) りーダーシップ
(8) 心理的トレーニング (18) コーチング能力開発
(9) 実地コーチソグ (19) スポーツ組織・体系
(10)抗議を受け付けるための (20)ナショナル・チーム・
準備 プログラム計画
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