僕は外人コーチ −7− 計画・実行・評価(その1)

(月刊漕艇1996年11月号)

 

多くのアスリートが来る日も来る日もトレーニングに明け暮れるのは何故でしょうか。「楽しいから」「自分を変革したいから」「勝ちたいから」「記録など具体的な目標があるから」....どれも当っていると思います。

「何となく」ですか? うーん、弱りましたね。

「マゾだから」....あなたはこのリポートを読んでもおもしろくないかも知れませんので、その筋の雑誌を購読されることをお勧めします。

冗談はさておき、あるチャンピオンが行ってきたトレーニングのやり方を真似しても、そのアスリートが勝利をつかめるとは限りません。

10数年のキャリアを経た後では、はじめてボートに乗ったときの、水上という異世界に漕ぎ出したときの楽しさを同様に感じることはできないでしょう。

では、どんなことをしたらアスリートは目標を達することができるのでしょうか。そして、コーチは、そのためにどんなことをするべきなのでしょうか。.

まず、第一に、達成可能な目標を明確にして、それを達成するのにエネルギーを注ぐべきです。

くどいですね。そう、どうしたら目標を達成できるのでしょうか。

残念ながら必ず達成できるという手品を私は知りませんが、それに最も近いと思っているのが、計画、実行、評価のサイクルを繰り返すことです。

ここからは、勝手ですが、私が現在多くのエネルギーを割いて勉強しているエリート・スポーツのコーチングにおける目標、つまり非常に高いパフォーマンスを得るという目標を例とします。ですが、概念としてどんなレベルのスポーツでも同じだと考えます。

さて、「こうしたら目標を達成できる」と断言できる神様などどこにもいませんが、「こうしたら目標を達成できるのではなかろうか」と想像することなら人間にもできます。これが「計画」です。

 

計画とーロに言うのはとても簡単ですが、あるしースで目標とするパフォーマンスを達成するためには、膨大な計画が存在するべきです。

目標とする最も重要なレースで、生理的能力、心理的能力、技術、体調といったパフォーマンスを形づくる因子をすべてピークに持ってくるために、ひとつひとつのトレーニング・ピースや毎日のトレーニングに始まり、週ごと、月ごと、季節ごと、年ごと(さらに複数年あるいはそれ以上のスパンもあり得る)など、一定期間それぞれに目標を設定して、それに対する計画を立てるのです。短期的目標は長期的目標を達成するためのステップでもあり、また、それらはアスリート及びチームを動機づけるのにも重要です。

計画ができたら、それをできるだけ計画通りに「実行」します。計画通りに行かないのは何事につけても世の常ですし、臨機応変であることも確かに大切ではあります。

しかし、いたずらに計画を変更することは、計画と目標との関係を薄めるばかりでなく、計画は無視してもよいという風潮を引き起こしかねません。

さて、実行したなら、その成果、つまり目標が達成できたかどうかを吟味します。

意図した通り目標は達成されたでしょうか?

うまく行ったのは、あるいは行かなかったのは、何故でしょうか? これが「評価」です。

アスリートまたはクルーの実際の戦闘能力を評価するには、タイム・トライアル、それも限りなくしースに近い状況で、可能なら、レースを漕ぐことに勝るものはありません。コーチやアスリートにとって最高の動機付けになりますし、あるビッグ・レースに向かうのに、このうえない準備になります。

しかし、様々な能力が複合している「パフォーマンス」だけを評価の対象とするのでは到底不十分であることも付け加えるべきでし上う。何故なら、「パフォーマンス」から、あるひとつの要因を抜き出して、その優劣を論議するのが困難であるからです。

各々の要因に関する能力は、それぞれに計画され、評価されるべきです。

ある技術がどんなしベルに達しているかを評価するためには、それを誤魔化しては正しく行えないドリルをどれくらい正しくできるか記録する、などが考えられますし、あるトレーニング・ピースが生理的に適正な負荷を充足しているかを評価するためには、心拍数をチェックするのが有効でしょう、等々、枚挙に暇がありません。

これら「評価」に基づいて、次なるー定期間への計画をつくる、あるいはつくり直します。こうして自らの計画立案能力を洗練して行くのです。

計画、実行、評価を行う能力、これこそコーチとしての大部分を為すものだ、と私は考えています。

つまり、計画を立てる段階では、経験に基づく洞察が必要であり、実行する段階では、強力なりーダーシッブ、アスリートとの信頼関係、判断力が必要であり、評価を下す段階では、科学的な思考と知識が必要だと思うのです。

この計画、実行、評価のサイクルを通して、コーチはアスリートと自分自身を変えて行くことができます。アスリートの目標は、コーチとの共同作業をもって見出され、そして達成されるべきなのです。

 

<おわりに>

あまりにも抽象的な今回の稿は、たいへん読みづらいものになってしまったでしょうか。

この先、このリポートでもっと具体的な例を書きたいと思います。

実は、私はこのテーマを書くことをずっとためらっていました。なぜなら、余りにも重要で広汎なテーマであるが故に、その重要さを書き切れないのではないか、と怖れていたからです。

とは言え、逃げ回ってばかりいるわけにもいかず、研修期間の折り返しに差しかかろうとしていた96年初冬、このテーマについて書いてみようとー念発起しましたが、完成を見るまでに数ケ月を要してしまいました。

このテーマについてのリボートとして、この稿は「その1」としました。今後「その2」を執事するかどうかは判りません。

コーチとして、もっと成長した自分が、内容を補足したり、覆したくなったとき、「その2」を書こうと思います。

 

この稿おわり